中期乳価交渉、満額回答(10.30)

満額回答…ではあるがすっきりしない中途半端な結果に終わった。

当初の回答指定日である7月31日から引き延ばされてきた乳価交渉が遂に決着し、関東生乳販連が飲用乳価を10円値上げすると発表した。
10円の値上げは要求の満額ではあるが、改定は来年3月であり、単月だけの値上げである。
中期改定の目標が末期となったわけだが、この決着がひとまずの光明となり、雰囲気は明るくなったように思う。

一方、MMJでは指定団体より一足早く乳価交渉をすすめ、取引乳業に対し6円〜8円の値上げで合意を得た。
指定団体の乳価交渉が難航していた8月から交渉を開始し、10月上旬にはほとんどの乳業で額面通りの値上げを了承していただいた。
しかし、指定団体の値上げが決まらない中で、アウトサイダーであるMMJが値上げを要求するのは大変厳しい環境であった。
「団体が値上げしてないのになぜ先に上げるのか?」
「なぜこの時期に値上げするのか?」
という疑問が当然噴出した。強い難色を示す乳業もあった。
苦労しながらも、それらの理由を理解していただいたのである。
独占禁止法があるなかで、指定団体ができる「交渉」は限られる。
それに引き換え全国シェアという面ではまだまだ少量のアウトサイダーであるMMJは自由な交渉手段、自由な時期選定ができる。
指定団体に先んじて10月、11月の値上げを実現させたことで、低い乳価に不満を持つ酪農家に交渉の希望が生まれた。
新たに団体を脱退し、MMJやラクテックスに加盟する大型農家も現れた。

関東生乳販連が価格交渉に真剣に取り組むようになったのが9月になってからである。
各地の自主的なデモや、大型農家のアウトへの脱退者、内部でも発生する反体制分子。
状況が混乱する中でようやくついた今回の決着を、酪農家、中小乳業はどう受け止めているのだろうか。
ある乳業の生乳担当者の言葉を思い出す。
“全国的に上げていただくのであれば、我々はいくらでもかまわない、大手乳業がなぜ値上げを拒むのか、わからない―――――”

なんともお粗末な結果ではあるが、それでも満額回答に変わりはない。
関東で、そして全国でやったデモ行進は無駄ではなかった。
酪農家が自ら動き、主張した数々の運動。それらに参加した人々の熱い思いに、酪農の新しい時代を予感したのは私だけではあるまい。

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飼料・原料高騰、値上げ交渉の行方(8.12)

昨年、一昨年と続いた生産調整から一変、全国で生乳が不足してきている。
この4月には、実に30年ぶりに乳価引き上げが断行された。
原油価格、飼料価格は、現在さらに値上がりし、酪農生産者は例外なく苦しい経営状況となっている。
その苦境を表すかのように、酪農家戸数は北海道2.6%減、都府県では4.7%減と、都府県での廃業が目立つ(畜産統計)。
生産調整の後のコスト高で、生産が伸びるはずもない。
案の定今年度の生乳需給は逼迫、夏休みに入ってもタイト感は緩和されぬまま、最需要期は間近に迫っている。
そのような中、乳価の期中改定に向けての再交渉が大詰めを迎えている。
4月の値上げに続き、異例の期中改定交渉まで漕ぎ着けたのは、昨年より各地で行われた酪農生産者による大々的な値上げ運動によるところが大きい。
一連の生産者運動と施策の流れを以下にまとめる。(「安心安全な国産牛乳を生産する会」の活動内容は、「安心安全な国産牛乳を生産する会」HPにて詳細をご覧いただきたい)

2007年12月11日

平成20年度乳価交渉妥結、関東生乳販連は飲用乳価3%値上げ。
これを皮切りに他の指定団体も次々と3%上げで妥結。
北海道だけは加工向けで最大10円の値上げがあり、プール乳価では約8%の値上げとなった。

2008年1月16日

乳価上げなきゃシンポジウム
主催:「安心安全な国産牛乳を生産する会」
場所:千葉県船橋市船橋農協大ホール
各地から約200人が参加、乳価30円上げ要請を決議。
消費者団体の代表者、関東生乳販連職員を迎えパネルディスカッションを行った。
この会議には、(株)MMJ 社長である茂木がアウトサイダーを代表してパネラーとして出席。

2008年5月20日

乳価上げなきゃデモ行進
主催:「安心安全な国産牛乳を生産する会」
場所:日比谷野外音楽堂
1月の会議内容を受け、全国から約300人が乳価27円上げを求め都内をデモ行進。

2008年3月27日

農水省「都府県酪農緊急経営強化対策事業」実施を決定。
要件満たした生産者に対し経産牛一頭あたり最大16500円の補助金を交付すると発表。

2008年6月5日

「安心安全な国産牛乳を生産する会」が関東生乳販連と討議。
乳価27円上げの理解に向け関東販売委員会への生産者参加を要請。

2008年6月13日

農水省「都府県酪農緊急経営強化対策事業」を異例の期中改定、追加49億円上乗せ。
追加要件実施農家に経産牛一頭あたり最大9000円を交付。
北海道にも新規対策事業を創設、都府県同様要件実施で経産牛一頭あたり最大5700円交付するとともに、加工原料乳補填金を30銭上げ。

2008年6月16日

第1回関東販売委員会 「安心安全な国産牛乳を生産する会」が第1回関東販売委員会に出席。

2008年7月28日

危機突破群馬県酪農民大会
主催:群馬県酪政連・牛乳販連
場所:群馬県前橋市農協ビル
酪農家ら700人が参加。10円以上の即刻値上げ、飼料対策の充実要請を決議。
群馬県庁前をデモ行進、群馬県知事、県議会へ要請。
各単協関係者が上京し、乳業大手3社へ値上げ要請。

2008年7月31日

酪農危機突破・生産者乳価10円以上引き上げ全国酪農民総決起大会
主催:日本酪農政治連盟
場所:東京日比谷公会堂
全国から2300人余の酪農家が参加。
保利耕輔総合農政調査会長(自民党)、葉梨康弘畜産・酪農対策小委員会委員長ら国会議員37人が来賓として出席。
10円以上の値上げを求める決議後、明治、森永、日本ミルクコミュニティ、全国乳業連合、全国農協乳業協会、 日本セルフ・サービス協会、日本チェーンストア協会、日本スーパーマーケット協会、日本生協連への要請活動を展開した。
日比谷公会堂からJR有楽町、東京駅をデモ行進。新宿、渋谷駅前で乳価値上げに理解を求めるチラシを配布。


この他にも、近畿生乳販連総会において酪農家から543通にのぼる嘆願書の提出が紹介されるなど、 気運の高まりは乳価値上げを達成するに充分であるかのように見えた。
しかし、7月31日の回答指定日に結論が出ることはなかった。
大手乳業メーカーは依然として慎重な姿勢を崩さず、夏場の牛乳消費動向を見極める必要があるとして回答を引き延ばす考えを示した。
すでに九州は域外への生乳出荷制限に踏み切り、北海道の道外移出制限も時間の問題であるから、最需要期の都府県では牛乳の欠品の恐れも出てきている。
大手の回答引き延ばしで、10月からの値上げ自体微妙になる中、生産量は減少の一途を辿り、遂に店頭から牛乳が消える事態となるのだろうか?
その危機に真っ先に直面するのは中小乳業メーカーであることは言うまでも無い。
指定団体の配乳を事実上大手メーカーが握っている状況で、中小メーカーの欠品により空いた棚に入り込めるのは大手だけである。
小売にとって主要食品である牛乳の棚が空くのは大きな痛手であるから、より有利な条件で商品を棚に並べることができる。
その時こそ値上げの最適期であることは間違いない。
全てが大手主導で、その戦略にまんまと組み込まれていると思うのは邪推だろうか。

各指定団体の乳価値上げ要求額には8円50銭〜10円以上と開きが出ている(表参照)。
飼料価格だけでなく原油高による生産費上昇分転嫁の差であるとみられ、前回の交渉での横並びイメージを払拭し、 各指定団体の色が出せるかどうかも含め、今後の動向に注目したい。

各指定団体の値上げ要求額
東北8円90銭
関東10円
東海8円50銭
北陸9円80銭
近畿10円以上
中国10円
四国10円
九州9円90銭
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2008年のコラム